【作 者 名】
あいはらみえ 【登場人物】男6 女6 他1 計13名
【上演時間】45分
【コメント】3.11 東日本大震災の津波で、演劇部員の祖母の家が流されてしまいました。
かろうじて流されずにすんだ2階の部屋には、たくさんの着物や和服が残っていました。
そして今年の春、衣装として使ってくださいとその大切な着物のすべてを演劇部に寄贈してくださいました。
この物語は、その想いを何とか次に繋げたいという部員の気持ちから生まれました。
寄贈いただいた着物を使って時代物がやりたい!出来れば自分たちが江戸時代に
タイムトラベルしたい! 部員は目を輝かせて私に演目の構想を話してきました。
ですが、時代をいつにするのか、また江戸時代にするならば上演したいテーマや時代背景、
登場人物像などがちゃんと設定されていないと、興味本位だけでは創作の意味がないよと言い、意見しました。
演劇部の中にまさに登場人物のユウキとマサルのような歴史オタクの男子部員2名がいて、取り上げる時代や人物を私と一緒に調べていくと、ある人物に行き当たりました。
その人物とは、徳川家康の嫡男で、今川義元の姪である瀬名(築山殿)が母であり、また織田信長の娘を娶(めと)り、武勇にも秀でて将来を期待されていた若武将、松平信康。
歴史上では、父の家康に切腹を命じられ21歳の若さで自刃する「信康事件」という悲劇の主人公ですが、もし、彼がこの現代に来たら、今の中学生をどう見るのだろうかという話になりました。
私は、昨年そして今年と、中学校の演劇部の指導にボランティアで出向いていますが、
中学生と接するたび、今の中学生は「何かにイライラしている」と感じます。
イライラの原因は勉強のことであったり友達のことであったり、家庭のことであったりと実に様々ですが、中でも家庭内のことが原因で、学校に来て友人にあたったり、いじめに発展したりということも少なくなく、これらの問題を自分で解決する手立てもないまま日々流されて学校生活を送っている中学生も多いのです。
また、何か問題にぶつかっても自分で解決するどころか見ないようにしたり逃げてしまったりして、今おかれている状況を変えようという気持ちにまでなりません。
「原因は意外と自分にあるんだよ、自分が変われば周りも変わるんだ」
と、アドバイスしても、言葉では分かっていてもそこまで自分の心を変えることが
できないのです。
そこで、現代の、悩みを抱える中学生男子のモデルとして『田中ケンジ』に登場してもらい、戦国時代を強く生き抜いた『松平信康』にこのメッセージを伝えてもらうことを思いつき、この脚本を作りました。信康のまっすぐな力強い言葉でケンジがハタと「自分が強くなることだ」と気がついてくれれば良いなと思います。
それからもう一つ、この劇にはケンジと信康の二人が抱える「父と子」のテーマを盛り込んでいます。史実では、信康は父の家康に愛されず心を通わすことができないまま処刑されてしまいます。だからこの劇中では、信康に対しては元の時代に戻ったら父と交流が果たせるのだという希望、そしてケンジに対しては父とは別れることになっても父の愛情を信じ、再会できるのだという未来、この二つを願いに込めてラストシーンとしました。
家族とは?友だちとは?私たちからのメッセージが観て下さった方々に少しでも伝われば
嬉しいです。そしてこの劇を観終わったときに、気持ちがスッキリとすがすがしくなって頂けたら本当に幸いに思います。
【使 用 料】脚本公開規則に準ずる
【上演許可】作者名から申請してください。
【上演記録】北区飛鳥中学校
2012年度都大会